日本鬼子ちゃんの妄想小説

彗星のごとく現れた新たな萌えキャラ日本鬼子(ひのもとおにこ)ちゃん。詳しくは以下のリンクで。
すくいぬ 日本鬼子って萌えキャラ作って中国人を萌え豚にしようぜ
「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む : 「日本鬼子」中国オタクへ侵攻開始
日本鬼子ぷろじぇくと まとめ@wiki - アットウィキ

まだ設定とか固まってないみたいだし、今のうちに好き勝手やらせていただきます。
以下、独自設定てんこもりにつき注意。

1

すらりと伸びた手足。
黒い濡れ髪。
整った顔立ち。
切れ長の目。
爛々と燃えるように赤い瞳と額より伸びた一対の角がなければ、絶世の美人として後世に語り継がれたかもしれぬ。
この娘は鬼であった。
人の心を喰らう物の怪は数居るが、この鬼の好物は“怒り”
仲睦まじい夫婦を引き裂き、玉のような赤子を踏み潰し、手塩にかけた家畜を食い散らかす。蹂躙された者どもの憎悪こそ、この上ない甘露。
無論、人もただ手をこまねいていたわけではない。あの手この手と退治するための策を弄していた。
そしてついに、その労力が報われるときが来たのだ。
「おのれ人間め……!」
息も絶え絶えな鬼。その怒りに満ちた視線の先に居たのは、ただ一人の男。
岩を砕く怪力も、鉄を切り裂く爪も、目にも留まらぬ俊敏さも、この男には通じなかった。全て不可解な力で返され、いとも簡単にねじ伏せられてしまったのだ。
「何より腹立たしいのは、地べたに這いつくばる我が身の不甲斐なさよ。ああ熱い。怒りで身が焼けるようだ。地獄の業火とはこのようなものか!」
集落を襲い、多くの人々を苦しめてきた退治すべき鬼。
それを見下ろしながら、男が感じていたのは“安堵”でも“優越感”でもなかった。
この娘は人々の怒りより生まれ、怒りを喰らい育ち、怒りに身を焦がしながら死ぬ。
それは、あまりにも哀れすぎるのではないか。
「娘よ」
自惚れかもしれぬ。
「そなたは生きよ」
この場で成敗しておくべきだったと、後悔する日がくるやもしれぬ。
「この世は捨てたものではない。それを教えて進ぜよう」

2

鬼子(きし)神社。
ある地方都市に建てられた、それなりに歴史のある神社だ。
小山の上の森にある神社は喧騒から切り離され、街中であることを忘れさせる。
しかし、爽やかな朝の日差しの中、どんよりとした空気を纏った少年がいた。
名は日本武(ひのもとたける)この神社の神主の息子である。
「なんでせっかくの休みに一人で掃除なんだよ……」
「ごめんなさい……」
障子の影から申し訳なさそうな顔を見せる少女。
歳はタケルと同じか少し上。透き通るような白い肌。腰まである艶やかな黒髪。柔らかい物腰。違和感なく着こなしている純白の着物。大和撫子とはこの娘のためにある言葉なのではないか。そう思わせるほどの美少女であった。
だが、多くの人は次の瞬間に悲鳴を上げ逃げ惑うだろう。
「こんなじゃなければ私がお掃除ぐらいするのに……」
裾から覗く白魚のような指は──うっすらと透け、境内を掃く少年の姿が見えていた。
そう、彼女は幽霊なのだ。
 
それから数十分。
あと少しで掃き終わるというタイミングで来客があった。
「空気読めよ……」
「無茶言わないでくださいよぅ」
 
客は二十代ぐらいの女性。最近よく悪いことが起きるのでお払いして欲しいとのこと。
しかし、肝心の神主が不在。事前の予約を勧め、今日はお引取り願うことにした。
とぼとぼと女性が鳥居を潜ったところで、タケルは背後に控える少女に尋ねた。
「見えたか?」
「はい」
お祓いに来る人はそれなりに居るが、大抵はただの思い込み。
だが、時々いるのだ、本当に憑かれている人が。
「父さんたちは明日まで帰ってこないし、俺たちだけでやるしかないか」
しばらく放っておいても大丈夫なものなのか、急を要するものなのか、それがわからない以上今すぐ祓うしかない。
しかし、少女の方は躊躇している。
「でも……」
「俺が未熟者だってのはわかってるよ」
「い、いえ、そんなつもりでは……!」
その場で土下座し、思いつくありとあらゆる謝罪の言葉を並べ立てはじめた。本人は必死なのだろうが、正直ウザイ。
生まれてきてごめんなさいとまで言い出したので、いいかげん話を進めることにした。
「お前がやるんだ、鬼子(おにこ)」
「え?」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔が、信じられないと言いたげな表情をしている。
「で、でも、それには封印を解かないと……」
「わかってる」
「鬼ですよ! 角が生えてて力が強くで残虐ですよ!?」
自画自賛か」
「めめめ、滅相もない!」
また床を髪で磨く作業が始まった。いい加減にして欲しい。
「お前が鬼になるところなんて何度も見てるだろうが」
「それはそうなんですけど……ひやぁ!」
少女はお尻を押さえて飛び上がった。
「なにするんですか〜」
「何って、怒ると変身するんだろ?」
タケルの手には御札が一枚。低級霊の捕縛用なので、痛い程度でダメージはない。
「それ、そら、そいや」
「熱っ! ちょっ、やーん!」
本人は大真面目なのだが、傍目にはいたいけな少女を弄っているようにしか見えない。
「ああもう、これじゃ駄目だ。別の方法が浮かぶまで休憩だ休憩」
「それでお願いします……」

3

タケルは台所で早めのおやつをとることにした。頭脳労働には甘いものが一番。
今日は饅頭だ。控えめの甘さにほどよい皮の厚さ。ベストバランスと言えよう。時々申し訳程度の薄い皮が張り付いているだけのものがあるが、あんなものは饅頭ではない、餡子玉だ。
「本当に美味いな。できればこんなときに食べたくなかった……」
肝心の怒らせる方法についてはさっぱり浮かばない。
感情は喜怒哀楽の四つで構成されているが、鬼子はそのうちの“怒り”が欠落しほとんど残っていない。
おまけに小心者で荒事が苦手。こちらが悪くても謝ってしまう。
強力な物の怪を狩るときは毎回封印が解かれているため、確実に怒らせる方法はあるのだろう。ただし、それを知るのは両親のみ。
強気に迫れば鬼子から聞き出せそうだが、怒ることに強い罪悪感を持つ彼女は自ら原因に関する記憶を封じてしまうのだ。
「悪口言っても駄目だろうなぁ」
幼少時、何度も泣かせたことがある。
「大切にしてる物に当たるって方法もあるけど、あいつ私物ないし」
強いて言うなら彼女が祭られている本堂か。しかし流石にそこに悪戯する度胸はない。
「困った……」
饅頭三つ目、最後のひとつを咥えたところで──境内に鬼子の悲鳴が響き渡った。
「ど、どうした」
「それ私へのお供えじゃないですかー!」
「そうだったか? テーブルに置いてあったから」
鬼子は箱を奪い取り、空であることを確認するとがっくり膝をついた。
「酷い……楽しみにしてたのに……」
ぷるぷると怒りに体を震わせ──怒り?
「いや、まさかこんなことで……」
「牙ァァァァァ!」
「うぉっ!」
雄叫びと共に着物の裾に火がついた。
瞬く間に炎は全身を包み込む。
「馬鹿! 火事にする気か!」
慌てて消火器を噴射。
なんとか火は消し止められ、消化剤と煙の漂う中、ゆらりと鬼子が立ち上がった。
大丈夫かと声をかけようとして──タケルは逆に強大な妖気と殺気を叩きつけられた。
「うわやば……破ァッ!」
手のひらに念を込め、間一髪。見えない壁がナイフのような爪を弾き返した。
「おま、法術なかったら死んでたぞ!」
「口を慎め外道が! この恨み、晴らさでおくべきか!」
「饅頭でキレるなよ! だけどまあ……結果オーライか?」
雪のように真っ白だった肌は、熱に浮かされ紅潮。
吸い込まれそうな黒い瞳は、ギラギラ輝く血のような赤に。
死に装束のような着物は真紅に染まり、鎧が肩や胸を、般若の面が顔半分を覆った。
そして何より、額に生えた一対の角。
彼女は鬼の名にふさわしい姿へ変貌していた。
「さっさと片付けるか。鬼子、さっきの人を連れ戻してくるから待ってろ」
「半人前の指図は受けぬ」
いつの間にか得物の薙刀を用意し、玄関から出ようとしている。
「ちょっと待て、今のお前は実体がある。霊感ない人にも見えるんだぞ!」
「知るか」
その一言を最後に、鬼子の姿は掻き消えた。
「やばい……」

4

このところ身の回りで不可解なことが起きていた。
誰も居ないのに声が聞こえたり、気がついたら知らない場所で呆けていたり。
しかしここまで酷いのは想定外だった。
「我の名は日本鬼子! うつし世に蘇りし鬼にして、怒りの化身なり!」
「な、なな……」
決め台詞と共にポーズをとる鬼子を前に、腰を抜かして尻餅をつく物の怪付き。
近道しようと狭い路地を歩いていたら、突然角を生やして薙刀を持った改造和服コスプレ女が降って来たのだ。無理もない。
「た、助け……」
この場から逃げ出そうとして──
『おっと、そうはいきませんよ』
女性は、意識を失った。
 
先ほどまで怯えていた女性は、不敵な笑みを浮かべると鬼子に歩み寄った。
『まさか本当にあなたが祭られていたとは……長生きはしてみるものですな、鬼子殿。いや、本来の名でお呼びした方が──』
「五月蝿い黙れ!」
薙刀一閃。刀身は女性の体をすり抜け、物の怪のみを真っ二つに切り裂いた。
『ちょ……まだ何も……』
仕事終了。
これにて一件落着──といきたいところだが、そうは問屋が卸さない。
「おまわりさーん!」
正気を取り戻した女性は泣きながら大通りに走る。
「ええい足りぬ! これでは怒りが収まらぬ!」
鬼子は殺る気満々で薙刀を振り回す。
ああ、このまま警官隊との大捕り物が始まってしまうのか。
「そこまでだー!」
妖気を辿りなんとか追いついたタケル。鬼子の前に飛び出すと、手にした箱を開けた。
そこに並ぶは色取りどりの饅頭たち。つぶ餡こし餡ウグイス餡、さらには芋餡やかぼちゃ餡まで。
「饅頭……」
「そうだ、饅頭だ」
「たくさん……」
「たくさんある、全部お前のだ」
「全部? 本当に?」
「本当だ」
からんと薙刀が倒れる。
鬼子は霊体に戻っていた。

5

ヒノモト家の居間。満面の笑みを浮かべた鬼子は饅頭にかぶりついていた。
実体がない今の姿だが、お供えされたものだけは触れるらしい。
「おひとついかがですか?」
いつもなら遠慮しないところだが、今回ばかりはきっぱり断った。
「お前は好きなものを後に残すタイプだからな。下手に選んで怒られたら困る」
鬼子はクスリと笑った。
「タケルさん酷いですぅ。私が饅頭食べられたぐらいで怒ると思ってるんですか?」
「……やれやれ」
多少のゴタゴタはあったが、ヒノモト家は平穏を取り戻した。
ただひとつ、来月の小遣いまで残り五百三十二円でどうやりくりすればいいのか……。
タケルは頭を抱えた。